貴族の本棚 第11回「何様のつもり/思わず考えちゃう」

 お笑いコンビ「髭男爵」のメンバーである山田ルイ53世さん。ライブ活動やラジオ番組のレギュラー、声優などに加えて、近年では、「ヒキコモリ漂流記」「一発屋芸人列伝」など書籍の執筆、雑誌の人生相談など、独自の文才を生かした執筆活動も注目されています。

第11回目は、人と違う見方をしたり、自分の考えを言語化したりすることについて、次の二冊を例にお話いただきました。


第11回 
何様のつもり
(著:ナンシー関/角川文庫)

思わず考えちゃう
(著:ヨシタケシンスケ/新潮社)

出された時代は違うけれど
共通するものがある。それは……

 版画家、コラムニストのナンシー関さんは、テレビに出てくる著名人に対する独特の批評が持ち味の方。辛口でありながらもどこか笑える鮮やかなコメント、それに添えられた絶妙な味のある消しゴム版画。ほかの誰もが真似できない、一種の芸(術)の域にも達するようなコラムには、ただ感服するしかありません。

 出版は1997年なので、若い保護者の方が知らない芸能人や著名人もいるかもしれませんが、ぜひ、YouTubeで調べた上ででも、読んでほしいです。

 いっぽうのヨシタケさんの単行本は、それから20年以上後に出版されています。ビジュアル要素として、ナンシーさんが版画でみせるのに対して、ヨシタケさんはかわいいイラストを添えているのが、これまたずるい(笑)

 両者に共通するのは、大半の人が形にできないものをしっかりと言語化して見せていること。多くの人が「だいたいこんな感じでいいだろう」と思っているものを、「本当にそれでいいのか」「本当は違うんじゃない?」と、考え方の道筋をはっきり示してくれるところがすごいなと思います。

いいとされていることを疑うことが
自分の思考を訓練する一歩になりうる

 学校は、おそらく7、8割の人が「いい」と思っているものを、「いい」と思うように教えるところです。世の中の大多数がよしとする価値観を共有できるようになるのは、確かに大事なことではあります。

 いっぽうで学校は、多くの人が「いい」と考えているものが本当にそうなのか、実は違うのではないかと「疑問」をもつ方法は教えてくれません。しかし僕は「それって本当?」と、決められたものを疑って見る習慣をもつべきと思っています。

 大勢の人がいいと思っているものに対して、自分がなぜそれを「違う」と思うのか、人に共感してもらうには、筋道を立てて言語化しなくてはなりません。疑うことは、そういう思考の訓練になります。さらに批評できれば、なお素晴らしい。

 ちょっと皮肉っぽいけれど、芯を突いた考え方ができるようになることは、芸人にとっても、大事な視点なのです。

 いや、芸人の道を勧めているわけではありませんが(笑)。

本は「読むこと」よりも
「読み解くこと」に意味がある

 ナンシーさんの書く文章は、書かれている著名人のことを知らなくても、そこに書かれた言葉だけで笑えてしまうような表現が残されています。ヨシタケさんも、普段から心に留めているであろうモヤモヤした気分を、文章にしながら解凍していったんだろうな、という跡が見てとれます。

 こんなふうに、普段からああだこうだと考えている本を子どもに読ませたい。そして、子どもにも、ああだこうだと思ってほしいです。

 今はいろいろなものが「読みやすく」「受け入れられやすく」仕立て上げられて世に出されています。柔らかくて飲み込みやすい、それはまるで加工食品です。

 しかし、実際の食べ物は、固かったり苦かったりして食べにくいもの。したがって本当は、しっかり咀嚼しないといけないはず。

 食べるなとは言いません。ただ、「食べやすい、分かりやすい」と飲み込むのではなく、「何でこんなに食べやすくなっているんだろう」と、加工している人の意図を読み解いてほしい。

 それが大事ではないでしょうか。

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いよいよ連載も残り1回となりました。次号でも、山田ルイ53世さんのおすすめの本をご紹介していきます。お楽しみに!

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