貴族の本棚 第10回「太陽の子」

 お笑いコンビ「髭男爵」のメンバーである山田ルイ53世さん。ライブ活動やラジオ番組のレギュラー、声優などに加えて、近年では、「ヒキコモリ漂流記」「一発屋芸人列伝」など書籍の執筆、雑誌の人生相談など、独自の文才を生かした執筆活動も注目されています。

第10回目は、同じ日本でも、地域によってさまざまな文化の違いがあることを知ったという、思い出の一冊を教えていただきました。


第10回 
太陽の子
(著:灰谷健次郎/角川文庫)

同じ日本でも、こんなに違う?
新しい文化や風習があることを知る

 「太陽の子」を読んだのは、小学生の頃です。著者で児童文学作家の灰谷健次郎さんは、元小学校教師の経歴をもっている方で、「兎の眼」や「ひとりぼっちの動物園」「天の瞳」などの代表作で知られています。

 この物語は、日本の終戦から30年後の兵庫県神戸市が舞台。僕も同じ兵庫県に住んでいたので、設定には親しみを感じました。しかし舞台は神戸ながら、そこで展開するのは、沖縄県出身者を両親にもつ少女の物語。登場人物にも沖縄出身者が多く出てきて、かれらが置かれた立場や心情が描かれていくというものでした。

 僕はそこで、沖縄の文化に初めて触れました。主人公のふうちゃんは沖縄料理店の一人娘。ラフテーソーキそばなど、聞いたことのない料理の名前に興味をひかれました。

 実物を見たのは、大人になって上京し、何かの打ち上げで初めて沖縄料理店に入ったときです。料理の数々を目にして、子どもの頃の体験の伏線を回収したような気がして、ちょっと感動しました。

本を読むと、違う世界のものに
自分のペースで触れることができる

 物語の中には、ほかにも、楽器の三絃(さんしん)や、沖縄の蒸留酒の泡盛など、沖縄の文化や風習がたくさん登場します。また、「うちなー(沖縄本島)」「ヤマト(日本、本土)」など、ふだんの自分たちとは全く違う言葉も飛び込んで来ます。僕は「同じ日本なのに、こんなに違うんだ」と驚くと同時に、「呼び方が違うくらいに、沖縄と本州とは距離感があるんだな」と、子ども心に思いました。

 同じ国の中とはいえ、ちょっと離れると全くの異文化といってもいいくらいに離れていることもある。この物語に書かれていることが全てではないけれど、これも一つの考え方だ。この作品を読んで、初めてそんな体験をさせてもらいました。

 本は、違う世界、異なる考え方の社会に、自分のペースでゆっくり触れることができるものだと思います。だから、なるべく頭や心が柔らかいときに触れてほしい。そして、よい話、ハッピーな話以外の、「しんどい話」や「納得いかない話」にも多少は触れてほしいです。

男爵のポリシーとなった?
ふうちゃんの言葉とは

 作品の中で、ふうちゃんが、お店の常連の桐道さんの声色で、お母さんにこう語る場面があります。

 「本は買って読め。家は借りて住め」

 お母さんが意味を問うと、ふうちゃんは「本はひとのを借りて読んで、せっせっと家を買うお金をためるような人間にはなるなということ」と解説します。小学生の僕は、この言葉にとても感銘を受けました。

 勉強するのに、人に本を借りるようでは自分の身にならない。本は何度も読んで、自分の身にしていくものなのだから、自分でお金を払って買うべきだ。家を買うお金はなくても、「起きて半畳、寝て一畳」ということわざもある。家なんてどうにでもなるじゃないか。

 そんな精神性にあこがれた時期を過ごした僕は、本は自腹で買わないと、その中身は身につかない、という考えの持ち主です。……今は、家、買いたいですが(笑)。

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いよいよ連載も残り2回となりました。次号でも、山田ルイ53世さんのおすすめの本をご紹介していきます。お楽しみに!

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