貴族の本棚 第8回「三銃士」

 お笑いコンビ「髭男爵」のメンバーである山田ルイ53世さん。ライブ活動やラジオ番組のレギュラー、声優などに加えて、近年では、「ヒキコモリ漂流記」「一発屋芸人列伝」など書籍の執筆、雑誌の人生相談など、独自の文才を生かした執筆活動も注目されています。

第8回目は、もしかしたら、今の貴族スタイルの漫才を確立させるきっかけになったかもしれない? 作品を教えていただきました。


第8回 
三銃士
(著:アレクサンドル・デュマ/訳:竹村 猛/KADOKAWA)

貴族スタイル漫才の完成には
三銃士が関わっていた……?

 『三銃士』は、ルイ13世が治めていた頃のフランスが舞台。……僕は53世なので、今から40代前になりますか(笑)。

 フランスの田舎貴族のダルタニャンが、銃士になることを夢見てパリに出てきて、三人の銃士と協力しながら、いろいろな困難を解決していくという物語です。銃士とは、小銃で武装して、王を守る任務についた貴族の兵士のことを言います。

 僕は今、相方のひぐち君と「髭男爵」として、貴族が漫才をするというスタイルで皆さんの前に登場しています。実は、この形式に至るまでの過程の間に、「フェンシング漫才」というものも検討したことがあるんです。お互いに剣を持って向かい合い、フェンシングをしながら漫才をして、最後のオチで「もうええわ〜!」と、剣を喉元に突きつけて「ハッ」と相手が立ちすくむ……という(笑)。

 このオチは、小学生のときに読んだ、『三銃士』からインスパイアされたものです。実際に日本フェンシング協会というお店で、豪華な模造刀のサーベルを数万円で購入して検討しました。結局採用しませんでしたが……。

 貴族・山田ルイ53世の中には、三銃士の要素も加味されていると言えるでしょう。

 

読んだら次々にあふれてくる……
迫力の「字面」にあこがれを抱いて

 中世のフランスを舞台にした『三銃士』には、ふだんの生活では使わないような言葉が次々と登場してきます。「枢機卿」とか「馬蹄」「外套」「間諜」など、インパクトのある字面は、栄養満点のステーキのよう。切ったら滝のように「字」味たっぷりの肉汁があふれてきそうです。

 当時小学生だった僕には、それらヨーロッパ世界の言葉がとても新鮮で、まさに異世界のようでした。中でも「枢機卿」という文字が印象的で、人物たちの後ろで暗躍する奴(本当はカトリックの聖職者)というイメージと共に、今でも頭に残っています。

 また、日本の物語にはない、数々の「仕掛け」も面白い。城の中に落とし穴や地下通路があったり、王の座る玉座の後ろのカーテンから人物がスッと現れたり、中庭の草むらを南に十歩、北に十五歩歩いたところに石があって、それを回してみたら隠し扉が現れたり。ストーリーはもちろん、その込み入った仕掛けを説明するくだりにも、想像力を刺激されました。

 執筆活動もするようになった今、ややこしい物事を文章で説明するときの参考として、それらの記憶が役に立っているかもしれません。



エンタメ作品の「元ネタ」を知ると
もっと深く味わうことができる

 『三銃士』は、アニメになったり、ゲームタイトルに使われたりと、現在楽しまれている様々な作品の元ネタになっています。このように、名作と言われる昔の作品をモチーフにしたエンタメ作品は、身のまわりに数多く存在します。

 子どもに人気の『かいけつゾロリ』は、アメリカの作家が書いた『怪傑ゾロ』、マンガ『ONE PIECE』はスティーヴンソンの『宝島』。大人向けの作品も同様に、過去の名作が下敷きになったものはたくさんあります。

 僕は、それらの原作を知らず、新しい作品として受け止めることは、ちょっと損してるなと思うのです。作品を鑑賞する楽しみの中には、「この映画のこの場面、あの作品が元になっているな」「このマンガは、昔の○○という作品の設定をヒントにしているな」という、「元ネタがわかる喜び」というものがあります。

 人生のうちで一番良い感じで感受性を発揮できる子どもの時期にこそ、アンテナを広げて、過去の名作にも触れる試みを行ってはどうでしょうか。

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次号でも、山田ルイ53世さんのおすすめの本をご紹介していきます。
お楽しみに!

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