貴族の本棚 第6回「そばかす先生のふしぎな学校」

 お笑いコンビ「髭男爵」のメンバーである山田ルイ53世さん。ライブ活動やラジオ番組のレギュラー、声優などに加えて、近年では、「ヒキコモリ漂流記」「一発屋芸人列伝」など書籍の執筆、雑誌の人生相談など、独自の文才を生かした執筆活動も注目されています。

連載も順調に6回目、ちょうど折り返しとなる今回は、山田さんの子ども時代の思い出に残る、印象深い一冊を教えていただきました。


第6回
そばかす先生のふしぎな学校
(著:ヤン・ブジェフバ/訳:内田莉莎子/絵:ヤン・マルチン シャンツェル 学研)

いつか読み返したいと思っていた
心の中に残る一冊

 今回の本は、僕が小学校低学年のころに読んだものです。かなり昔のことですが、読んだときの印象がとても強くて、大人になってもずっと内容を覚えていました。いつかもう一度読み返したいという思いを抱きつつも時は経ち、長女が小学校に入学したとき「この子にも読ませたい」と、本を探したところ、時既に遅し、廃刊に。

 あわてて、インターネットのサイトや古書店を探して取り寄せました。

  作者のヤン・ブジェフバは、ポーランドを代表する作家であり詩人で、ウクライナ生まれ。二十代のときから詩を発表し、とくに子どものためにたくさんの詩を書いたそうです。この作品は1946年に書かれました。ポーランドの子どもたちに大人気で、児童劇としても上演されたものです……というのは、大人になって知りました(笑)。

  さし絵を描いているヤン・マルチン シャンツェルも、ポーランドのアーティストで、この本が代表作と言われています。

 

奇抜なアイデア、不思議な設定
素敵な言語感覚に強くひかれた

 この物語は、タイトルにある通りの「ふしぎ」な学校が舞台です。主人公の通う学校のクレクス先生の顔はそばかすだらけ。先生は毎晩そばかすをはがして、金のかぎたばこ入れにしまいます。フライパンの上に絵の具を塗って、絵の具で料理を作ったり学校の大きさが伸縮自在だったり、『マッチ売りの少女』や『眠り姫』などの物語の世界に出かけることができたり

  ちょうど今で言う『ハリー・ポッター』や『ドラえもん』のような、不思議世界の設定で、小学校低学年にとっては、まさに未知の次元、扉の向こうの世界です

 また、使われている言葉も素敵です。「新鮮なそばかす」「イラクサのしげみ」「こはく細工」など、聞いたことのない言葉が期待感や興味をかきたてます。「かぎたばこ」や「ひまし油」など、少し古い時代の言葉は意味すらわからないのですが、ひとつひとつのエピソードの設定が面白いので、わからないままに想像をふくらませながら、楽しんで読んでいました。

  バッドエンドではないけれど、少しさみしさが残るエンディングも印象的です。今のドラマやアニメでは、決してスポンサーや視聴者が許してくれない終わり方かもしれません(笑)。



同じ感覚を味わってほしくて
子どもに手渡した、その反応は

 「自分が感動したこの本の奇抜なアイデアに触れてほしい」と思ってあちこち探してやっと手に入れたこの物語ですが、「どう、読んだ?」とたずねる親の期待とは裏腹に、わが子からは「ウン、読んだよ?」というつれない返事が返ってきました。……この本をおすすめしておいてなんですが、どうやら、あまり心にしみていないようです。

  そこから言えるのは、たとえ読んでほしい、読むといいと思う本があっても、親が自ら「これを読みなさい」と手渡すのもどうなのかなと、いうこと。

 大人が「与える」というより、本棚やテーブルの上にでもなんとなく置いておいて、子ども自身がその本を見つけるまで「待つ」ような余裕のあるスタンスの方が良かったかなと反省しています。子どもが自分の意思で「これ何だろう」と本を手にとり、ページを開いて夢中になってほしい。

  次の機会はあせらずに、「待ち伏せスタイル」でいきたいと思います。

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次号でも、山田ルイ53世さんのおすすめの本をご紹介していきます。
お楽しみに!

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