貴族の本棚 第5回「巌窟王/ああ無情」

 お笑いコンビ「髭男爵」のメンバーである山田ルイ53世さん。ライブ活動やラジオ番組のレギュラー、声優などに加えて、近年では、「ヒキコモリ漂流記」「一発屋芸人列伝」など書籍の執筆、雑誌の人生相談など、独自の文才を生かした執筆活動も注目されています。

今回も、山田さんのお父さんとご自身の、子ども時代の本にまつわる思い出と共に、おすすめの本を紹介していただきました。途中、「髭男爵」誕生につながる発見も……!?


第4回
巌窟王
 (著:アレクサンドル・デュマ/訳:矢野 徹/講談社青い鳥文庫)
ああ無情
 (著:ビクトル=ユーゴー/訳:塚原 亮一/講談社青い鳥文庫)

この物語をすすめた父は
何を読み取ってほしかったのか

 子どものときに読んだ本は、父と図書館に出かけたとき、「これは面白いぞ」とすすめられたものが多かったかもしれません。今思い返すと、父は「江戸川乱歩の名前の由来は……」など、自分がいいと思ったものを子どもに教えたがる人だったと思います。

 「巌窟王」「ああ無情」も同様に、父からすすめられて読みました。どちらも子ども心にズッシリとくる、重苦しい物語でした。

 「巌窟王」の主人公、ハンサムで勇気のある船乗りのダンテスは、友人に裏切られて14年もの間地下牢に閉じ込められます。その後脱走に成功して宝物を手に入れ、モンテ=クリスト伯爵と名乗り、復讐のために冒険を繰り広げていきます。

  「ああ無情」の主人公のジャン=バルジャンも、たった一切れのパンを盗み、19年もの間牢屋に入れられます。ミリエル司教に救われて立ち直った彼は事業を成功させて街の市長にまでなるものの、新たな試練が襲いかかります。

  他人におとしめられ、とてつもない苦渋を味わいながらも立派な紳士になって返ってくる。けれども思わぬところから足を引っ張られたり、過去をばらされたり……。物語の展開にひかれて読み進めたものの、内容には胸が締め付けられました。

  父は、これらの物語から、何か教訓めいたものを読み取ってほしかったのかなと思います。

  ちなみに巌窟王(原作「モンテ=クリスト伯」)、ああ無情(原作「レ・ミゼラブル」)の両方とも、各国で人気の作品で、さまざまな映画やドラマ、ミュージカルなどが作られています。観た人も多いかもしれませんね。  

 

まさか、自分のルーツがここに!?
シルクハットをかぶった「苦悩に満ちた主人公」

 このように、ストーリーは面白いけれども、内容は決して愉快ではない両作品ですが、子ども心に「こんな人生ってすごいな」と、憧れを抱いた時期が一瞬、ありました。長い沈黙の時期を経て突然表舞台に現れ、マイナスからのリカバリーを鮮やかに果たす。そんなかっこいい展開に、胸ときめいたものです。

  今、改めて自分の人生を振り返ると、「結構、ジャン=バルジャンに似てるな」と感じます。引きこもりという沈黙の時期を経て、次は芸人で生きるための下積み生活。長い長いトンネルを抜けて、やっと芸人になれたと思ったら「一発屋」と呼ばれ……。苦悩に満ちた人生、まるで「山田ルイ53世伯」です。そうすると、うちの娘はコゼット(「ああ無情」でジャン=バルジャンに引き取られる少女)でしょうか。

 それは冗談としても、まさか自分の人生が、「巌窟王」や「ああ無情」のような展開になるとは……(表紙を見て)エッ!? どっちの表紙も、主人公がシルクハットを被ってる! ……これは……。



子どもには、人生に
何かしらの影響を与える本を読んでほしい

 前にもふれましたが、本を選ぶときに、楽しい話、前向きな話ばかりを子どもに与えるのは、正直どうかなと思います。

  本を読むと、さまざまな世界があると知ることができます。ですから、世の中には楽しい人生もあるけれど、どうしようもなく苦渋に満ちた人生もあるんだ、ということを子どもに知ってほしい。そして、実際に読んで、しんどくなってほしい(笑)

  読んだら心が重たくなるけれど、そんな作品もあるのだということを味わって、苦しくなってほしいのです。それは、「実体験」ではなく、「本」だからこそできることです。

  今回、はからずも、自分の人生のみならず「髭男爵」のキャラまでもがモンテ=クリスト伯爵やジャン=バルジャンの影響を受けているやもしれぬことが判明してしまいました。

 子どもには、そんな影響力がある作品に出逢ってほしいと思います。

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次号でも、山田ルイ53世さんのおすすめの本をご紹介していきます。
お楽しみに!

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