貴族の本棚 第3回「怪人二十面相」

 お笑いコンビ「髭男爵」のメンバーである山田ルイ53世さん。ライブ活動やラジオ番組のレギュラー、声優などに加えて、近年では、「ヒキコモリ漂流記」「一発屋芸人列伝」など書籍の執筆、雑誌の人生相談など、独自の文才を生かした執筆活動も注目されています。

今回は、子ども向けの、いわゆる「名作」を題材として、「本を読むこと」の面白さや良さをお話しくださいました。


第3回
怪人二十面相
(著:江戸川乱歩/ポプラ社ほか)

今と昔で全く違う!?
男爵、作品のアップデートぶりに驚く

 江戸川乱歩の作品も、子どものころに夢中になって読んだひとつです。中でも代表的なのは、名探偵の明智小五郎と弟子の小林少年、少年を団長とする少年探偵団が怪人二十面相と対決するシリーズでしょう。

 作者の江戸川乱歩は、もともと怪奇ものや恐怖ものが得意な作家で、気味の悪さを感じるナンセンスな作品もたくさん書いています。僕は子ども向けに書かれた「怪人二十面相」シリーズを読んだ後で他の作品を読み、そのギャップにびっくりしました。

 怪人二十面相は変装の達人で……(本を手に取り、無言に)……。

 僕が読んだ「怪人二十面相」の小林少年は、こんなに小洒落た感じじゃない(笑)。もっと粗野な、街の路地裏にいるような少年です。明智小五郎もシュッとして、まるで別人。……なるほど、今は挿絵をアニメキャラのように描いて、現代の話のようにわかりやすくしている本もあるんですね。

 

今の時代のエンターテインメントの
原典になっている作品はたくさんある

 昔から読み続けられてきた本には、今、人気を博している作品の下敷きになっているものがたくさんあります。

 実際、子どもたちに大人気のアニメ「名探偵コナン」には、「怪人二十面相」の影響が色濃く感じられます。たとえば主人公のコナンの名字は「江戸川」。怪盗が犯罪を犯す前に脅迫状を出す設定も同じです。

同じく子どもに大人気の「おしり探偵」も、基本的な設定は同じです。僕は、あのキャラクターの特殊な造形(笑)に、乱歩の怪奇的な要素を感じます。

ほかにも、「南総里見八犬伝」や「三国志」「水滸伝」など、子ども時代にわくわくしながら読んだ物語には、現代のヒーローものの設定との共通点がたくさん存在します。たとえば八犬伝は江戸時代に書かれた作品ですが、映画や漫画、ゲーム、歌舞伎など、すぐれたエンターテインメント作品として、これまで何度も取りあげられてきました。最近では「ドラゴンボール」の発想のヒントになったとも。

今の物語の下敷きには、昔から読み継がれ、受け継がれてきた元ネタがある。それを知って読むことが大事だと思うんです。

「おしり探偵」だけじゃなくて、「怪人二十面相」や「シャーロック・ホームズ」や「アルセーヌ・ルパン」など、パパが読んできた探偵たちの本もぜひ読んでほしい。だから僕は、自分が子ども時代に読んだ作品を、家の中のいろいろな場所に潜ませて、子どもの目に触れるチャンスを狙っています

 

「わかりやすくする」ことで
「わからなくなる」こともある

  子どもに読んでもらうために、イラストや文章をわかりやすくすることは、ひとつの方法でしょう。しかし本を読むときには、絵を見て想像を補うのではなくて、字面を読んで、頭の中で情景を想像していくほうが、より「気付き」の感覚を得られる気がします。

 物語を文字で読むことで、作者が伝えたいもの、作者が言いたいことに気付いたときに、より心がふるえるような体験ができると思うのです。

 読んでいてわからない言葉が出てきても、それはそれでいい。「どんなものなんだろう」と思いながらも、面白さにひかれて読み進め、あとで「そうだったのか」と振り返る。そんな感覚も味わってほしいです。

  大人はつい、子どものすることに手を出してしまいます。たとえば野菜を食べさせようとして、細かく刻んで料理に入れるのはその典型です。工夫は素晴らしいと思うけれど、野菜とは分からずに口にしたその体験を、果たして「野菜を食べた」と言えるでしょうか。ゴロゴロの形のまま食べて、「苦い」とか「おいしい」と味わったほうが、子どもにとって良い体験となったかもしれません。

 最初に触れるものが、誰かの手によってわかりやすく加工された状態であることは、非常にもったいないことだと思います。

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次号でも、山田ルイ53世さんのおすすめの本をご紹介していきます。
お楽しみに!

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