貴族の本棚 第2回「ボッコちゃん」

 お笑いコンビ「髭男爵」のメンバーである山田ルイ53世さん。ライブ活動やラジオ番組のレギュラー、声優などに加えて、近年では、「ヒキコモリ漂流記」「一発屋芸人列伝」など書籍の執筆、雑誌の人生相談など、独自の文才を生かした執筆活動も注目されています。

 連載第二回目から、早くも「髭目線」が発動!? 子どもも保護者も一緒に読めるシリーズをご紹介いただきました。





第2回
ボッコちゃん
(著:星新一/新潮社)

小学生のときに図書館で出会い
一気にのめり込んだ

 子どもの頃の僕の家にはこれといった娯楽がありませんでした。当時はやっていたファミコンやゲーム&ウオッチ、キン肉マン消しゴムなど、とにかく、小学生が喜ぶようなものは家の中に全くありませんでした。

 小学校高学年のときに家にやってきたテレビも、観てもいいのは時代劇かNHK。時間も制限されていたので、楽しみは本を読むことくらい。「文学少年」という程ではありませんが、自然と足は近所の図書館に向かっていました。

 星新一さんの本に出会ったのは、そんな小学生のとき。星さんは「ショートショート(超短編小説。小説の中でも特に短い作品)」というジャンルを確立した作家として知られています。その名の通り、ひとつひとつの物語が短く、すぐに読み終えられることと、短い中に「えっ」と思う展開や結末が用意されていることにひかれ、当時の僕は夢中になりました。

 最終的に、ほとんど全ての作品を読んだと思います。

 

作家の背景を知ることで
作品はもっとおもしろくなる

 今回紹介する「ボッコちゃん」は、星新一さんの作品の中でもとくに代表的なものです。

 あるバーのマスターが、趣味で美人のロボット「ボッコちゃん」を作り、カウンターでお客の相手を務めさせます。美人でツンとしたボッコちゃんは、たちまち評判になります。お客がボッコちゃんに飲ませたお酒は、マスターがこっそり足の管から回収。それをまたお客に飲ませるので、店は痛くもかゆくもありません。

 そんなボッコちゃんに恋をして通い詰めた青年が、あるとき思いあまって毒入りのお酒を飲ませます。「勝手に死んだらいいさ」と青年が出て行った後、マスターは……。続きは、読んでください(笑)。

 星さんの作品はどれも読みやすく、ひとつひとつの完成度がとても高いです。また、作家である一方で、大学院で化学を学んだ科学者であり、生家は大きな製薬会社という背景をもっています。そんな情報を知っておくと、作者が何を考えてこの作品を書いたのかやどんなメッセージを込めたのかを想像しながら読むことができるかもしれません。

 SF小説の巨匠とも言われ、多くの作家に影響を与えた星さんの作品は、読んだ方も多いのではないでしょうか。

 

「素直に伸び伸び」だけじゃない
ものの見方があることを知ってほしい

 「子どもに読んでほしい本、おすすめの本」というと、一般的には、ヒーローが次々とドラマチックな冒険をしたり、逆境の中で努力をして最後に成功したりするようなものを期待されるかもしれません。キラキラした物語やポジティブなストーリーに触れることは、わかりやすく、楽しいものです。

 しかし星新一さんの作品には、そんな「派手」な人たちは登場しません。仮に主人公が芸能人という設定だとしても、登場するのは大して成功していない「地味」な人物です。週末のバーベーキューに誘う仲間には困らない「リア充」ではなく、むしろ社会と断絶しているかのような雰囲気の人物。それでも、平凡な日常を粛々と生きている。その設定が非常にリアルです。

 また、文体や文章の表現も特徴的です。飾り立てた表現やオーバーな言い回しがなく、余計な感情を込めることを一切排除しているので、作品全体に乾いた印象があります。そこをぜひ味わってほしいです。

 加えて、どの作品にも、人生の「気付き」や「教訓」が含まれています。僕は、ショートショートはもちろん、長編作品も読んでいるのですが、一貫しているのは「人間とはおろかで滑稽なものだ」というメッセージです

 フワフワした口当たりのよいお話だけを読み、素直に伸び伸びと育つ。親はそう願いますが、それだけでは面白くない。人生は、「お菓子の国」のようにはいきません。

 人生を少し斜めの視点から見るための教材として、ぜひ一緒に読んでもらいたいと思います。

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いかがでしたか? 次号でも、山田ルイ53世さんのおすすめの本をご紹介していきます。
お楽しみに!

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