貴族の本棚 第1回「ざんねんないきもの事典」

お笑いコンビ「髭男爵」のメンバーである山田ルイ53世さん。ライブ活動やラジオ番組のレギュラー、声優などに加えて、近年では、「ヒキコモリ漂流記」「一発屋芸人列伝」など書籍の執筆、雑誌の人生相談など、独自の文才を生かした執筆活動も注目されています。

本連載では、二人のお子さんのお父さんでもある山田さんに、「小学生におすすめの本」を紹介していただきます。さて、どんな本が登場するでしょうか?





第1回
おもしろい!進化のふしぎ
ざんねんないきもの事典シリーズ
(監修:今泉忠明/高橋書店)

本を知ったきっかけは
今泉さんとの対談から

 今や子どもに大人気のこの本に出会ったきっかけは、監修者である今泉忠明さんと、NHKの番組「スイッチインタビュー」で対談したことです。これは「異なる分野で活躍する二人が、二週にわたってゲストとインタビュアーを「スイッチ(入れ替わり)しながら語りあう」という主旨の番組で、2020年1月に放送されました。

 今泉先生とは初対面でした。「ざんねんないきもの」の本を監修している学者の先生と、一発屋芸人を自認し、同じ一発屋の芸人たちを取材した本まで書いている僕。

 「……その組合せってつまり、僕が「ざんねん」ってことか(笑)? 」と、心の中でツッコミながら収録に臨みました。

 

「進化する」とはどういうことなのか

 番組の前半では、先生が実際にフィールドワークをしている場所を巡りながら、「ざんねんないきもの」の話を聞いていきました。 

 たとえばパンダ。パンダといえば笹の葉が大好物というイメージがありますよね。ですが、何と、本当は肉食性の動物だそうです。

 ではなぜ笹の葉を食べているのか? それは大昔、ほかの動物との生存競争に負けたから。競争相手に追いやられたパンダは生き物のいない高山で生きるしかなくなり、そこに生えていた笹の葉を食べて飢えをしのいだそうです。その習性が残っているから、今も笹の葉を食べているというんです。

 ほかにも、メガネザルは目が大きくなりすぎた結果、目玉がほとんど動かせないとか、サイの角は骨ではなくて、実はイボだとか、今まで知らなかった動物の話をいろいろと教えてもらいました。

 「進化」は、一見素晴らしいことのように思えるけれど、実は、必ずしもそうではない場合もある。それでも動物たちは生き延びてきた。この本は、そんなことをユーモラスに紹介しつつ、進化って何だろう? ということを別の角度からも考えさせてくれるんです。

 収録後に早速娘に買い与えたら、すごく気に入って、夢中で読んでいました。

 

「むだな知識」はムダじゃない!
心の中を彩り、人生を支えるもの

 このシリーズで紹介されている「ざんねんないきもの」の話は、知らなくても別に困ることではありません。「カバのお肌は超弱い」とか「イルカは眠るとおぼれる」とか、知れば「そうなんだ」とは思いますが、人生に必要不可欠なものではなく、どちらかといえば「むだな知識」に入るでしょう。

 「むだな知識」を自分の中に蓄えられるのは、子どもの間だけ。大人になればなるほど、その時間がどんどん減っていきます。かわりに、試験に合格したり、資格を取ったりするための時間がどんどん必要になっていきます。知識は「楽しむため」ではなく、「お金を得るため」に身につけるものへと変わるのです。

 今の世の中は、合理的なやり方や考え方、生き方をする人が注目される面があります。

 確かに、人生を効率よく生きるのは大事です。ですが僕は、必要なことしか知らない人よりも、むだな知識をたくさん持っている人の方が、心の中を豊かに彩れると思います

 人間の体で言えば、「人生に必要なこと」は背骨。そして、「むだなこと」は、背骨と背骨をつなぐ軟骨。固い背骨をクッションのようにつなぐ軟骨があるからこそ、地面がグラグラしても、人間はしなやかに立っていられるのです。

 生き方が「ぎっくり腰」「ヘルニア」にならないよう、ぜひ小学生のうちに、たくさんの「進化のもと(むだ)」を集めてください。

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いかがでしたか? 次号でも、山田ルイ53世さんのおすすめの本をご紹介していきます。
お楽しみに!

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